マイクロ法人、一人会社立ち上げの際、固定電話が必要か迷っている方が多いのではないでしょうか。携帯電話がない時代は固定電話はコミュニケーション手段として最も重要なものでした。携帯電話がスマートフォンとなり一人一台普及するにつれて、個人宅においては固定電話を持たない家が増え、公共料金契約や銀行口座開設などにおいても固定電話番号の記入が必須ではなくなりました。プライベートでは携帯電話があれば電話機能を使わずとも、SNSでのコミュニケーションで十分だと考える人も多く”電話番号を使って電話をかける”という行為よりも”SNSの通信機能を使って電話をかける”方がコスト的にも有利であり、使用頻度が上がっているのではないでしょうか。ビジネス上においてもこのような世間の流れに乗って、顧客とのコミュニケーションの軸が固定電話から携帯電話、そしてSNSへと移りつつあり”固定電話は不要”との考えが広まりつつあります。
しかし、マイクロ法人一人企業において、本当にそれで大丈夫でしょうか?
固定電話が必要な3つ理由
社会的信用が得られる
実務的に固定電話がないと困るということは、ほぼありません。
私の会社には光電話で契約した固定電話がありますが、電話が鳴ることはほとんどありません。
それでも固定電話を置いているのはなぜか?
それは居所を明確に示して顧客に安心してもらうためです。
例えば、商品を購入したりサービスを受ける会社の電話が携帯だけだとしたらどう思いますか?何か問題があった時に連絡が取れるのだろうか、会社の実態や事務所は本当にあるのだろうかなどと不安になるはずです。小さな会社、一人の会社にとっては、顧客の信用を得られるかどうかは、事業の成否を左右するほど重要です。固定電話の番号が記載されていることで、事務所が存在し電話をかければ対応してもらえるという安心感につながり、その結果会社の社会的な信用が大きく増すことになります。固定電話がある事だけですべて手放しで信用を得られるわけではありませんが、取引の開始や購入を決断する際、入口での後押しとなるのではないでしょうか。
通話音質が安定している
私の会社はビルの12階にあり、某大手キャリアの電波が弱く、聞こえにくかったり切れたりすることがあります。仕事上の重要な案件や大切な用件については、相手の心証を害したくないので固定電話から連絡をするようにしています。電話が切れてかけ直したり、声が途切れて何度も聞き直しされることは相当なストレスとなり顧客の気持ちは前向きにはならず取引も順調に進みません。私の事務所では光電話03~を使っていますが、有線で繋がっているため音質は素晴らしく、携帯電話に比べ相手の声がはっきりと聞き取れます。通信状態も常に安定していて、会話に集中できるため、商談や交渉もスムーズに進みます。
リスクマネジメントとして役立つ
記憶に新しいところでは、大手携帯キャリアで大規模通信障害が発生し、音声通話、データ通信が全国的に使えないという状態となり、事態が収拾して完全に回復するまでに62時間を要しました。携帯電話が全く使えないとどれだけ不便か実感した方も多いのではないでしょうか。通信障害というのは小規模なものも含めると令和3年だけで6000回を超えており、携帯電話だけでなくインターネット接続やIP電話での障害も日常的に起きています。さらに昨今の気候変動による大規模な災害の頻度が増し、東南海地震や首都圏直下型地震などの震災発生のリスクも高まってきており、通信障害に対する対策が重要になっています。いつどこで起こるかわからない障害に対して、複数の通信通話手段を持つことが大きな備えになります。携帯電話の通話やデータ通信がつながらないようなときは、固定電話を使える状態にしておくことが、リスクマネジメントとしても大切になります。
固定電話の種類
固定電話は大きく分けると、①メタル(銅線)を使ったアナログ回線とデジタル回線、②インターネットのIP網を使った回線に分けられます。すでにメタル回線の廃止は決まっており、メタル線とIP網を併用したメタルIP電話へと移行していきます。今後はメタルIP電話かIP電話を選択することになります。
総務省
- 現在、メタル回線とつながっている公衆交換電話網と光回線とつながっているIP網(NGN)が併存しています。
- NTTは、IP網への移行後もメタル回線を維持し、加入者交換機を「メタル収容装置」として利用し、変換装置を経てNGNへとつながっていく「メタルIP電話」を当分の間提供する考えを示しています。
- ⇒ IP網移行後は、これまでのメタル電話(加入電話・ISDN電話)の利用者が、引き続き固定電話を使う場合には、IP電話に移行するか、あるいはメタル電話の代わりに提供されるメタルIP電話を利用することになります。
メタル電話
アナログ回線
古くから使われてきたアナログ回線による電話回線で、電話機をメタル線(銅線)でつなぎ音声を伝える方法ですが、今後は廃止となることが決まっています。全国の固定電話を繋いでいるNTTの固定電話網は、加入電話の契約数が減少していることや電話の交換設備が2024年頃に維持限界を迎えることなどを背景として、2024年1月以降順次IP網に移行することが予定されています。
デジタル回線(ISDN回線)
アナログ回線と同じメタル線(銅線)を使用し、音声をデジタルデータに変換してから送信される為、ノイズが少なく品質の高い音声通話が可能になります。デジタル回線では電話+FAX、電話+インターネットなど2回線が使用可能になります。こちらもアナログ回線廃止に伴い、使用できなくなる予定です。
メタルIP電話
メタル回線の廃止に伴い、NTT局内がIP網の装置に変わりますが、家庭からの引き込みはそのままメタル回線を使用します。従来の設備であるメタル線を一部使いIP網とつなぐことからメタルIP電話と呼ばれています。局内の工事のみで対応し、各家庭では手続き不要でそのままの電話機を引き続き使用することが可能です。NTT収容局までメタル回線でつながっており、そこから電源が供給されるため停電時も使用可能で、メタル回線の強みもそのまま引き継がれます。基本料金は今まで通りですが、通話料は全国一律8.5円/3分となります。
IP電話
光ファイバーなどのインターネットに使われる回線を利用した電話で、音声をデジタル化して送受信します。インターネットの接続状況により音質が左右されますが、コストが安いためビジネスや家庭でも広く活用されています。
0ABJ番号IP電話(03~、06~など)
0ABJ番号とは、「03」や「06」などの市外局番から始まる固定電話番号のことです。全10桁の数字が「2桁(市外局番)+4桁(市内局番)」-「4桁(加入者番号)」という構成になっています。10桁を「0ABCDE-FGHJ」と表すことから、「0ABJ番号」と呼ばれます。「0ABJ番号」を使うには、総務省の定める通話品質「接続品質」「総合品質」「安定品質」「ネットワーク品質」の4つの基準を満たす必要があります。そのため、通常の固定電話と同じく、音質が安定していて、遅延が起こりにくいです。0ABJ番号IP電話の代表的なものとして、NTTの「ひかり電話」やその他の事業者・プロバイダが提供している「光電話」などがあります。ひかり回線でインターネット契約をしている方は、追加で申し込むことで利用できます。ただし接続事業者が変わると電話番号の引継ぎができない為、新たに番号を取り直さなければなりません。
050 IP電話
050IP電話とは、050から始まる11桁の電話番号のことです。全11桁の数字が、「050(IP回線)-通信事業者(プロバイダ)の識別番号-利用者番号」という構成になっています。0ABJ番号と違い「市外局番」「市内局番」といった地域の情報が含まれないため、携帯電話やスマートフォンでも使えます。ただし、こちらも通信事業者を変更した際には電話番号の引継ぎができないので、電話番号そのものが変わってしまいます。特に企業の場合、電話番号が変わると取引先に知らせたり、ホームページ情報を変えなければいけなかったりするなどの対応が必要になります。総務省の定める基準を満たす必要がない為、品質はインターネット環境による影響を受けます。
クラウド電話
クラウド電話はIP網使い電話交換機(PBX)をクラウド上に置いて通話する仕組みです。インターネットさえあれば電話交換機(PBX)が機能するため、場所をとらず工事も不要で、導入後の管理や運営も容易になります。複数回線をもつビジネスフォンの機能をスマートフォンで使えるようにしたもので、最大のメリットは社外でスマートフォンから固定電話番号(03~、06~など)の受発信ができることです。 携帯電話の利便性と固定電話番号の社会的信頼性を併せて実現できる非常に画期的なサービスです。マイクロ法人、一人会社で契約することも可能ですが、コスト面は事前にしっかりと確認して検討する必要があります。まだ新しいサービスなので、今後は参入業者が増えて、コストが低下してくる可能性もあります。
まとめ
一口に固定電話と言っても様々な技術とサービスがあります。マイクロ法人、一人会社の事務所にはコストと品質のバランスを考えると現時点では光回線の0ABJ番号IP電話(03~、06~)固定電話を導入することをお勧めします。メタルIP電話は基本料金が割高ですが停電時の使用もできるため、災害リスクを重視する場合にはこちらでも良いと思いますし、IP網を使ったクラウド電話は使い非常に使い勝手がよいため、今後コスト低下に期待したいところです。従来のメタル電話からIP電話へとインフラが大きくシフトする過渡期である為、新たに別のサービスが生まれてくる可能性もあります。常に情報をアップデートしながら、その時の電話に関する社会認識に合わせてサービスを選んでいくことが大切です。
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